かおっちゃん
真夏のようなかんかん照りの暑さの後は、季節がまた逆戻り。
こちらは昨日以来、朝からじとじと雨が降って、暗くたちこめた空といい、
オーバーなしでは耐えられない寒さといい、まるで真冬のようです。
フランス北西部のりんごとシードルで有名なノルマンディ地方は、雪でした。
誰もがいい天候と太陽を望むけれど絵を描く方たち(あなたも含めて)にとっては、
太陽(=自然光で絵の描ける時間)はもっと重要かもしれません。
パリにも、大きな日取り窓をもつ、天井の高い画家のアトリエが
今もあちこちに残っています。
ドラクロワが晩年を過ごしたアトリエ兼住居は、
パリ6区のフェルステンベルク・スクエアにあります。
にぎやかで交通量の多いサンジェルマン大通りを一歩入った閑静な場所。
今はセンスのいいインテリアの店や画廊、
骨董商に囲まれたシックなエリアで、おしゃれな方たちが散歩しています。
サンシュルピス教会の壁画「聖ヤコブと天使の闘い」を描いていたドラクロワが、
近くの通える場所に静寂なアトリエと住処を探していて見つけたのが
ここだったのです。
傑作となる「聖ヤコブと天使の闘い」を描くために、
ドラクロワはここから徒歩10分弱のサンシュルピス教会まで6年間通いました。
スクエアに面した木の扉を押して中に入ると、そこは別世界。
アーチのある全庭の石畳に佇むや、静寂に包まれて、
時間のない場所にタイムスリップしたかのようです。
この前庭の左手に、現在はドラクロワ美術館となった彼の旧アトリエと
住まいがあって、2階には彼が使ったパレットや、ドラクロワが大きな影響を受けた
ジェリコーの絵、ドラクロワ自身の絵画などが飾られています。
そして、2階の外側にかかる渡り廊下をわたったところにある離れに、
大きなガラス窓が天井までとられたドラクロアのアトリエがあります。
今回は「ドラクロワ展」に合わせて、シャガールやモローなどによる同テーマ
「聖ヤコブと天使の闘い」 の作品も展示されていました。
アトリエの外階段を降りると、そこは木と花にあふれる中庭です。
四方を建物に囲まれているので、外の道を歩いている人にはその存在すら
知られない、隠れた庭。都会の真ん中に、ひっそりとあるこんなにかわいい庭で、
日向ぼっこしたり、瞑想に耽ったりできるなんて、すばらしいではありまさせんか。この庭を囲むアパルトマンの住人の共有スペースですから、
独り占めと言うわけにはいきませんけれどね。
この場所を、ドラクロワ自身もとても愛していたようです。
彼は膨大な日記を残したことでも有名ですが、そこから当時の気持ちを
知ることができます。
「わたしのアパルトマンはほんとうに魅力的である(・・・)。
翌日は向かいの家に降り注ぐ、優雅な太陽の光で目覚めた。
アトリエのうららかな様子も、小さな中庭の眺めも、
わたしをいつも幸せな気持ちにしてくれるのだ。」
(ここに越してきた1857年の日記より)
いつか、今度はいっしょに訪れられたらいいですね。
コメントをお書きください